竹内流の形
竹内流のお家芸は
「とりて・こしのまわりこぐそく」です。
漢字では
「捕手腰廻小具足」と
表記します。
竹内家(藤一郎家・藤十郎家)が
代々にわたって伝承し、
門人に伝授している
戦国時代生まれの
貴重な
文化財です。
門人に伝授された「目録」の表題には、
などと書かれています。いずれにしても内容は同じです。
門人に授与される『目録』には、竹内流の形の名称が書かれます。
この形は、『稽古上達之次第』(竹内家所蔵)の順に伝授されてきました。これが流儀の原則です。
その形は、365ヶ条(兵法などは除く)にも及びます。まさに、膨大な伝統文化財です。
しかし、社会人や学生が数百もの形を稽古するのは大変なことです。そのために、昨今は、稽古次第の順番を変えたり希望する種目・形だけを体験したりなどと、今風の稽古に変容しています。
これらの形を
に大きく3分類して概観してみましょう。
〔一〕捕手・柔術系の形目録
捕手・柔術系の形には、
があります。
《1》「腰廻小具足」こしのまわりこぐそく
「腰廻小具足」の形目録(一覧)は、「目録抄」ページの「竹内流の形目録一覧(抄)」に載せています。
竹内流の形は、一尺二寸(約36㎝)前後の小刀(しょうとう=短い刀)を使う組討ちが特色です。竹内流ではこの小刀のことを『古語伝』のいわれによって「こぐそく」(小具足)と呼んでいます。また、これを腰に帯びた組討ちのことを「こしのまわり」(腰廻)とか「こしのまわりこぐそく」(腰廻小具足)と呼び、略して「こぐそく」と呼んでいます。
◇捕手腰廻小具足 表
稽古では「こぐそく・おもて」と略します。
◇捕手腰廻小具足 裏
稽古では「こぐそく・うら」と略します。これだけでも54ヶ条と、大変な稽古です。表と裏の稽古を合わせて79ヶ条です。形の流れを覚えるだけでも大変なのですが、「表稽古」と「裏稽古」が修了して、やっと「達者」です。
◇捕手腰廻小具足 小裏
稽古では「こうら」と略します。上達すれば誰でも稽古できますが、この形を教えることのできるのは、掟により竹内流の師または特別に許された師範代だけです。目録を伝授された高弟であっても、起請神文で誰にも教えないと誓っていますので、これを破れば「出席堅く無用」となります。
◇捕手腰廻小具足 裏極意
稽古では「うらごくい」と略します。「こうら」同様に、起請神文を書いて師範に差し出してから稽古ができます。もちろん、この形を教えることのできるのは、竹内流の師または特別な師範代だけです。
以上は、門人であれば誰にでも伝授されます。しかし、次の形からはごく限られた門人だけへの伝授です。もちろん、起請神文を認めた上での稽古です。
◇神伝捕手五ヶ条
◇必勝五ヶ条
◇極意八ヶ条
上の三件の形は、師範が高弟に別室で伝授します。もちろん、師範の許しのない公開はご法度です。
伝授された門人は、形の名称が書き込まれた目録を大事に持っていますが、内容は決して口外しない誓約になっています。したがって、その門人から外部の人へは絶対に伝わらない仕組みになっています。
ちなみに、「力信流」の目録には神伝捕手五ヶ条の形の名称がそのまま載っています。しかし、それは竹内流の形としてではなく、力信流の形として位置づけられています。官部嵯峨入道家光は竹内流三代目久吉の門人でしたが、自分が完全に会得した形として取り入れているのです。
これは自然のままの姿で、もはや「竹内流」ではなく、官部嵯峨入道家光の流儀なのです。もしも「竹内流」の3文字を巻物のどこかに載せていたら「力信流」ではなくなり、竹内流からは出席堅く無用となってしまうところでした。
◇捕手腰廻小具足 一子相伝
そのほか、立合小具足などの形がありますが、省略します。
これら「腰廻小具足」の形は、『日本柔術の源流 竹内流』(日貿出版)や『日本の古武道』(日本武道館刊)、『日本武道全集』(人物往来社)などで公開しています。
《2》「羽手」 はで
「羽 手」の形目録(一覧)は、「目録抄」ページの「竹内流の形目録一覧(抄)」に載せています。
竹内流のお家芸である腰廻小具足は、小刀などを使わない素手の組討ちに発展します。それが「はで」(羽手)です。「羽手」は竹内流独特の用語です。
小刀を持たない手のひらを眺めてみます。手指をそろえて伸ばした形はまるで鳥の翼のようです。この手指を鳥の羽になぞらえて、小刀・小具足の代わりに操ろうとする発想の術技です。
その素手の組討ちが「羽手・はで」です。したがって、腰廻小具足と羽手とは一連のものです。この両者には、柔術の源流に位置づけられる術技がふんだんに盛り込まれています。
羽手には、次の三種類があります。
稽古ではそれぞれを略して、「くち」、「なか」、「おく」と呼んでいます。すべて、板の間での稽古です。
〔 前羽手 くちはで 〕
前羽手には、次の7件29ヶ条があります。
◇胸倉取 むなぐらどり
◇胸倉取座詰 むなぐらどり・ざづめ
◇先髪取 せんがどり
◇杖捕 つえどり
◇拳張 こぶしばり
◇拳張座詰 こぶしばりざづめ
◇引合之棒 ひきあいのぼう
〔 中羽手 なかはで〕
〔 奥羽手 おくはで 〕
写真の形は、奥羽手の「かすみなげ」(霞投)です。打ってきた相手の首筋からすとんと地面に落とす形です。一瞬の術技です。竹内流の投げ技の最たるものです。もちろん、羽手の形の最後に登場しています。
大変危険な形です。したがって、稽古では首からではなくて背中から落とすようにして、相手がうまく受け身ができるようにします。さもないと、投げられた人は「かすみ」の彼方をさまよう羽目となります。
【心得・例外】
竹内流には、だいじな心得があります。竹内流は捕手であり、元々は組討によって生け捕りにする発想から生まれています。攻撃する術ではなくて護身の術であることを念頭に置くことが肝心です。
しかしながら、いくら護身の術であっても「いざというとき」には極めなければならない場合があります。例外です。極めなければならないと言っても、極まったら大変なことになる形が多々あります。
そのために、竹内流には大事な規定があります。掟の第九条で「業形ヲ試ス事」は絶対あってはならずと定めています。違乱したら出席堅く無用(破門)です。
したがって、明治・大正・昭和初期に流行った柔術の仕合(試合)には竹内流はなじめず、高弟であっても時流に乗った柔術を町道場で指南することはありませんでした。
そのため、竹内流は形としての指南を続け、その形が文化財として伝承されているのです。
〔 極意羽手工夫伝授 ごくい・はで・くふうでんじゅ 〕
《3》「捕縄」 ほじょう
「捕縄」の形目録(一覧)は、「目録抄」ページの「竹内流の形目録一覧(抄)」に載せています。
捕手は組討ちで極めるのが原則です。しかし、降参しないと見込んだら縄で生け捕りにします。それが「捕縄」です。
稽古では「なわ」と略して呼びます。
◇「迅縄」はやなわ
◇「半縄」(はんなわ)
◇「本縄」(ほんなわ)
◇「伝授縄」(でんじゅなわ)
◇「極意縄」(ごくいなわ)
◇「大極意縄」(だいごくいなわ)
この捕縄は、竹内家の師だけが伝承し、門弟に伝授しています。そして、起請神文で誰にも伝えないと誓った特別な高弟だけに、有償で伝授することになっています。現在では特例として、師範が特別講座などでそのさわりだけを直接に体験指南することがあります。
捕縄の稽古や演武にはすべて、師の許しが必要です。高弟であっても、師のいない所で捕縄のやり方を教えたり演武したりすることは絶対にありません。それは二代目の頃から現在へと引き継がれている師弟の仁義であり、礼智信の一つなのです。
このほか「一子相伝縄」などがあります。すべて、竹内家の師が伝承し、印可・後見役などの特別な門人にだけ伝授しています。師弟一体となって流儀を絶やさないための方策の一つです。
これらの形の名称は『日本柔術の源流 竹内流』(竹内流編纂委員会編・日貿出版社)などで公開しています。もちろん、竹内流の門人は、これらを真似て稽古することは可能です。しかし、師となって教えたら出席堅く無用となってしまうことを心得ています。
〔二〕剣術系
剣術系の形には、
があります。
《1》「剣法斉手」 けんぽうさいで
「剣法斉手」の形目録(一覧)は、「目録抄」ページの「竹内流の形目録一覧(抄)」に載せています。
剣法斉手には三種あります。
いずれも竹内流独特の形で構成されています。すべてが、「とりて」(捕手)の発想を秘めています。
◇「口斉手」くちさいで・前斉手
剣先の突きで相手をのけぞらせたり、一瞬速い斬りで相手を制したりなど、常に優位に太刀を操るための稽古用の形です。その太刀の操作には、「捕手」の心が秘められています。
普段の稽古では、師範・師範代や上手(うわて)の門人が「打ち」、下手(したて)の門人が「捕り」の役で稽古を繰り返します。そして、剣法斉手における「捕手」とは何かを体感することが肝心です。
演武大会では、師範・師範代が「捕り」、下手が「打ち」となって演武をするのが通例になっています。
あれれ、単なる形の稽古ではないのですね。本当は、腰廻小具足や羽手などを数十ヶ条も稽古した上での剣法斉手です。この段階の稽古をする門人は、「捕手」とは何かを自分なりに体感し始めているはずです。
◇「中斉手」なかさいで
中斉手は、太刀を持つ相手に小刀を使って立ち向かう剣法です。
小刀は補助的武具として使い、実質は剣法の形態をした捕手なのです。したがって、相手を殺傷しません。その勢いを保ちながら相手を制し、降伏させ、生け捕りにするのが目的の業形です。
写真の「よつでくだき」(四ツ手砕)は、自分の小刀を手放してその右手で相手の左手を握って四ツ手にします。したがって、残された武器は我が左肘だけとなります。こうなると、剣術というよりは「柔術」「体術」という感じですね。
◇「奥斉手」おくさいで
奥斉手は「鉄扇捌き」(✕鉄扇術)とも呼ばれます。鉄扇を持つ武将・藩士などがいざというときに心得ておく形です。したがって江戸時代には、藩主に仕える藩士を中心に伝授しました。
この奥斉手は見よう見真似で稽古できそうですが、「起請神文」を認めた高弟にしか伝授しない形です。したがって、師(藤一郎・藤十郎)の許しがないまま公の場で形の演武はできません。違乱した場合は、出席堅く無用となります。
《2》「抜刀・居合」 いあい
「抜刀・居合」の形目録(一覧)は、「目録抄」ページの「竹内流の形目録一覧(抄)」に載せています。
竹内流の剣法には「いあい」があります。岡山弁で「いやい」と発音することもあります。
※『日本柔術の源流 竹内流』竹内流編纂委員会編(日貿出版社)では、「いやい」と紹介しています。
漢字で書いたら「抜刀」です。抜刀と書いても竹内流では「いあい」と読みます。刀の抜き方など刀剣を扱う作法が主眼の稽古から「抜刀」と表記されるようになっています。
「居合」と書くこともあります。
◇抜刀(いあい)
◇抜刀中伝(いあいちゅうでん)
◇抜刀奥伝(いあいおくでん)
〔三〕棒杖系
棒杖系の形には、
があります。
《1》「棒杖」 ぼう・つえ
「棒杖」の形目録(一覧)は、「目録抄」ページの「竹内流の形目録一覧(抄)」に載せています。
◇表棒(棒表)
◇裏棒(棒裏)
★写真は裏棒「つるのいっそく」(鶴之一足)ですが、棒の形には跳躍の場面が多々あります。
◇奥棒
「上入」など7ヶ条
◇杖入身形仕合
「立合」など8ヶ条
◇杖極意
「鴨之入首」など4ヶ条
◇杖極意
「裏八方」など5ヶ条
《2》「槍」 やり
◇槍
槍そのものの形は残っていません。「やり」(槍)が「ぼう」(棒杖)に変容してしまったからです。
棒の「物見」にはその変遷が如実に現れています。槍を持って門前で立哨(りっしょう)していた戦国時代の構えが、江戸時代の平穏時になると棒を持って立哨する構えに変化しています。また、「物見」は、「槍は突くもの、叩くもの」という竹内流の教えをそのまま形に表しているのが特色です。
つまり、「槍」の形の一部は、現在の「棒」の形の中に残されているのです。特に、奥棒の「◉」には、起請神文を書いた高弟だけにしか伝授しない槍の極意技が秘められています。
《3》「長刀・薙刀」 なぎなた
「長刀」の形目録(一覧)は、「目録抄」ページの「竹内流の形目録一覧(抄)」に載せています。
◇「表 長刀合」(おもて なぎなたあわせ)
「水車」など8ヶ条
◇「中段 太刀合」(ちゅうだん たちあわせ)
「陽戦」など8ヶ条
◇「奥伝 太刀合」(おくでん たちあわせ)
「水月」など3ヶ条
◇「奥伝 長刀合」(おくでん なぎなたあわせ)
「陽焔」など3ヶ条
◇「奥伝 槍合」(おくでん やりあわせ)
「進勢」など8ヶ条
◇「奥伝 極意」(おくでん ごくい)
「登龍」など3ヶ条
「竹内流の稽古のやり方がよく分かりますよ!」
そんな評判になっているのが、
DVD『竹内流捕手腰廻小具足 柔術の源流の技と心』
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パッケージにはこんな言葉が・・・
戦国の組討、
捕手を中心として
多くの流派に
影響を与えた名流
DVD紹介の動画をどうぞ!
▶BABジャパンのDVD紹介動画(36秒)です。
36秒経ったらすぐに戻ってください。
(迷子になってしまいます)
BABジャパンから刊行されているDVD『竹内流捕手腰廻小具足~柔術の源流の技と心~』の内容は…?
竹内流捕手腰廻小具足
~ 柔術の源流の技と心 ~
《 内 容 》
第一章:基礎編 竹内流の歴史と特徴
第二章:腰鞠小具足(こしのまわりこぐそく)
第三章:羽手(はで)
第四章:剣法斉手(けんぽうさいで)
第五章:抜刀・居合(いあい)
第六章:棒杖(ぼう・つえ)
《指導 監修》
竹内藤十郎久武
(相伝家十三代目)
《演武者》
竹内秀将
竹内勢至
濱﨑一成
川重静恵
《補助者》
中川平介
楠田正則
《協 力》
竹内流相伝家道場
形の大きな流れを身につけ、
効く技を積み上げます。
心持ちを吹き込みます。
竹内流の稽古は、大きく分けると次の三段階です。
〔 第一段階 〕
形の流れを「見よう見真似」で稽古します。はじめのうちは、いわゆる「型どおり」です。一つの形をなんべんも繰り返し稽古して、形の流れを体で覚え込むのです。
上達の早い人は独り稽古(ひとりげいこ)をします。相手がいなくても体が自然に動くように、自宅などでも独り稽古をするのです。江戸時代や明治時代の人は竹内流の目録を持っていると有利でしたので、特に真剣でした。
自信をもって形の流れが演じられるようになったら、合格です。そうなると、門人仲間や師範の面前で伝授された形を流れのとおりに演武できるはずです。竹内流ではこれを「形を打つ」といいます。
【腰廻小具足の稽古での留意点】
初心者は、次の3点を意識して稽古すること。
(2)「効く技」の稽古
〔 第二段階 〕
形の流れが演じられるようになっただけでも、竹内流の形を稽古したことになります。しかし、竹内流の真義は「捕手」です。当然のことながら、相手を捕るための技が必要です。
そこで、第二段階では、効く技の稽古をします。相手が「まいった!」と反応するくらいに技を決める稽古をします。ただし、一段階で身につけた勢いそのままの寸止めは、徹底します。
以上はすべての人に共通の稽古内容です。それぞれの形に独自の技があることに驚かれるはずです。しかし、この段階になると、経験・体力・性格・年齢・性別などによって個人差が大きくなりますので、個人に応じた伝授の場面が多くなりますことをご了承ください。
(3)「心持ち」の稽古
〔 第三段階 〕
第一段階・第二段階だけでも、気迫のこもった演武ができます。しかし、更なる目標を持つ人は、形に心持ちを吹き込む稽古をします。
どうですか。竹内流は”奥が深い”という意味が何となくお分かりでしょうか。
いかがでしたか。
竹内流の形が365ヶ条(兵法などは除く)とは、
とてつもなく膨大な伝統文化財ですね。
『竹内姓系図』や『竹内系書古語伝』、伝書、口伝口承、関係書籍、墓石刻字、史跡、竹内家の民俗、流儀関係者の演武などに基づいて、公式情報を発信します。
竹内流相伝家道場
〒709-3104
岡山市北区建部町角石谷1131
E-mail: kobudo.takenouchi@gmail.com
師 範:竹内流相伝家十三代目 竹内藤十郎久武(本名 竹内武夫)
師範代:竹内流相伝家代行 竹内秀将
師範代:竹内流相伝家代理 竹内勢至
道場長:竹内智隆
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