竹内流初心者の稽古

「小具足を知らずして…」


 

竹内流へ入門したら、

「こぐそく」「はで」「ぼう」の稽古!

まずは、この三つの業形から始めます。

 

「小具足を知らずして竹内流を語ることなかれ」 

ここでは、初心者の稽古のあらましを紹介しましょう。

 

*「稽古」=けいこ・・・・・・・・・・

*「業形」=ぎょうけい=「形」(かた)

*「小具足」=こぐそく・・・・・・・・

〈内容〉

◆稽古の前にまず!

   竹内流って?

   入門が大原則!

   礼の仕方と気合の基本型

◆小具足11ヶ条に挑戦

◆羽手7ヶ条に挑戦

◆棒13ヶ条に挑戦


小具足「たちまちはなるる」の留めに入る瞬間
小具足「たちまちはなるる」の留めに入る瞬間

〔序〕稽古の前にまず!

 

竹内流って、どんなもの?

まずは映像で演武大会の様子をどうぞ。

 

えっ、竹内流を稽古するためには入門?

当然です、当たり前のことです。

大原則と特例を理解しましょう。

 

~「礼」の仕方と「気合」の基本~

これだけでも竹内流か否かが分かります。

独特の礼法や気合の基本を垣間見ておきましょう。

 

《1》竹内流ってどんなもの?

 竹内流の術技の総称は、捕手腰廻小具足」です。

 「とりて こしのまわり こぐそく」です。

 次のように呼ぶこともあります。

  • 「捕手」(とりて)
  • 「捕手腰廻」(とりてこしのまわり)
  • 「腰廻小具足」(こしのまわりこぐそく)

 最近では、古武道の分類範疇(カテゴリー)にあてはめて、「柔術」と総称することが多くなりました。

 

 竹内流捕手腰廻小具足(捕手・捕手腰廻・腰廻小具足・柔術)にはどんな術技が?

  • 「こぐそく」(小具足)
  • 「はで」(羽手)
  • 「なわ」(捕縄)
  • 「さいで」(剣法斉手)
  • 「いあい」(抜刀・居合)
  • 「ぼう」(棒杖)
  • 「なぎなた」(長刀)

などの形(かた)があります。総合武術です。その中核となるのは、「こぐそく」です。竹内流の門人ならば誰もが体験する形です。

 

 入門したら、「こぐそく・はで・ぼう」の稽古をするのが基本です。竹内流の代表的な業形です。

 

 あ、そうそう、「作州で棒を振るな」(作州へ行って棒を振るな)ということばがあります。竹内流の「ぼう」(棒術)の威力を感じますね。

 

***********

竹内流って、どんな形をするの?

百聞は一見に如かず、

まずは、第38回日本古武道演武大会の演武をどうぞ!

 《内容》

  • タイトル前:「はで」と「なわ」の演武
  • 前半:「こぐそく」の演武(袋竹刀を使用)4本
  • 後半:「はで」の演武(素手)3本

平成27年に日本武道館で開催されたときの「竹内流柔術 腰廻小具足」の演武 exfit TV 制作

 《一》「こぐそく」、《二》「はで」の解説では、この映像を参照します。

《2》稽古の前に「入門」! 古来からの大原則

 

 竹内流の稽古をするためには、まず入門。これが古来からの大原則です。

 

 *

 

 竹内流の門はどこ? 昔は美作国、作州の垪和郷(はがのごう)。今は市町村合併によって岡山市北区建部町角石谷。あれれ、岡山市といえば備前国。場所は昔と変わらないのにねえ。

 

 道場一帯は、岡山県史跡指定「竹内流発祥の地」です。竹内流宗家(竹内藤一郎)と竹内流相伝家(竹内藤十郎)の道場があります。流祖久盛、二代目久勝、三代目久吉の「親・子・孫」の三代にわたって集大成された竹内流を伝授する道場です。もちろん、正式の竹内流目録や允許状は、この道場の門人だけに授与されます。

 

 *

 

 入門をしていないのに「竹内流」を修業したと言っても、それは竹内流の体験をしたに過ぎません。

 

 竹内流に入門した人を門人と呼びます。その門人が竹内流の形の稽古をしてはじめて、「竹内流の修業をした」といえます。

 

 竹内流に入門するためには、「入門願」を書きます。入門願を提出して受理されてはじめて、竹内流の門人となることができます。

 

 *

 

 入門願には、必ず「掟をお守りします」と書きます。入門してからこの掟に違乱した場合は「出席堅く無用」となり、竹内流とは一切関係のない人になります。その時点で、何の手続きもないままに竹内流の門人ではなくなってしまいます。

 

 

★ 「入門願」の書き方は、『道場情報』のページで案内します。

 

 

昭和初期の「入門御願」は漢字と片仮名で自筆!
昭和初期の「入門御願」は漢字と片仮名で自筆!
昭和40年代の掟は口語体。「掟」を守る誓いはどの時代でも同じ!
昭和40年代の掟は口語体。「掟」を守る誓いはどの時代でも同じ!

《竹内流の稽古をするための大原則》

  • 入門願を書いて竹内流に入門すること。
  • 入門願には必ず「掟をお守りします」と書いて誓いを立てること。
 *「入門願」については、「道場情報」のページを参照。
 *「掟」については、「史料・史跡」のページを参照。
 
《竹内流の稽古を体験するための特例》
 次の場合は特例として、入門しないで稽古ができます。
  • ①入門を決めるまでの短期間、稽古を体験する場合。
  • ②道場見学のときに稽古を体験する場合。
  • ③主催講座・協賛講座のときに稽古を体験する場合。
  • ④学校教育・生涯学習の一環として稽古を体験する場合。
  • ⑤大学・高校のサークル活動・部活動の一環として稽古を体験する場合。
 もちろん、入門はいつでも可能です。竹内流の門人となっても、③④⑤の活動には自由に参加できます。
吉備柔道スポーツ少年団の古武道体験は真剣そのもの。引率のベテラン指導者の一人は竹内流の門人!
吉備柔道スポーツ少年団の古武道体験は真剣そのもの。引率のベテラン指導者の一人は竹内流の門人!
相伝家道場訪問の広島大学古武道部の面々。竹内流門人と竹内流体験者が混在!
相伝家道場訪問の広島大学古武道部の面々。竹内流門人と竹内流体験者が混在!

《3》「礼」の仕方と「気合」の基本型

竹内流の稽古は「礼に始まり礼に終わる」を徹底! それは「兵法の奥義は仁義礼智信・・・」(竹内流『心要歌』)の教えの実践化。
竹内流の稽古は「礼に始まり礼に終わる」を徹底! それは「兵法の奥義は仁義礼智信・・・」(竹内流『心要歌』)の教えの実践化。

《3-1》礼の基本

 礼には「はじめの礼」と「おわりの礼」があります。ここでは「はじめの礼」のしかただけを取り上げます。

 

 竹内流の礼は、次の順序で行います。

(1)「こぐそく」(座位)の場合

  1. つま先を立ててをつき、着座します。
  2. 相手の目をじっと見つめます。
  3. 小具足(小刀)を置きます。
  4. 左手三本指を床につきます。
  5. 右手三本指を床につきます。
  6. 相手を注視しながら頭をたれて謝意等を以心伝心で伝えます。
  7. 頭をあげて相手の目をじっと見つめます。
  8. 小具足(小刀)いただきます。
  9. 右手を逆手にして小具足の柄(つか)を握ります。
  10. 小具足(小刀)を腰に帯びます。
  11. 右手と左手を膝に戻します。
  12. 相手の目をじっと見つめたまま、次の所作に移ります。

 以上の作法は、「こぐそく」で稽古をする場合の礼の基本です。ええっ? 普通の礼の仕方とはずいぶん違いますね。

 

(2)「はで」(蹲踞・そんきょ)の場合

  • 心得は「こぐそく」の場合に準じます。

(3)「ぼう」(立位)の場合 

  • 心得は「こぐそく」の場合に準じます。

 

 さて、ここでアタマの体操です。「こぐそく」「はで」「ぼう」の「はじめの礼」に共通する所作1~12のうちの何番でしょうか。6つ選んでください。

 

「はてな問答」〔術技〕ページの「礼の基本」こたえを載せています。

 

 

 

 

つま先を立てて相手と対座!
つま先を立てて相手と対座!
三つ指で礼をしながらも相手を注視! 「こぐそく」の場合
三つ指で礼をしながらも相手を注視! 「こぐそく」の場合
袋竹刀や小木刀、木刀、棒などを「いただく」礼は丁寧に!
袋竹刀や小木刀、木刀、棒などを「いただく」礼は丁寧に!

《3-2》気合の基本型

  1. 「ヤアッ」
  2. 「ホオッ」
  3. 「エイッ」

 形を演武するときの気合の基本型です。

 

 実際には、

  • 「ヤアッ、ホッ、ホッ、ホオッ、ホッ、エイッ」

などと変化します。

 

 しかし、最初に相手を威嚇するときは

  • 「ヤアッ」「ヤアアッ」

 最後の留め

  • 「エイッ」「エエイッ」

です。

 

 この気合のかけ方一つで、どれだけ修行できているかが想像されてしまいます。

 

相伝家十三代目の気合「ヤアアッ!」
相伝家十三代目の気合「ヤアアッ!」
形の途中の気合は「ホッ!」「ホオッ!」
形の途中の気合は「ホッ!」「ホオッ!」


〔一〕「こぐそく」11ヶ条に挑戦

 

” 腰廻小具足 ”

「こぐそく」と略して呼びます。

竹内流の表看板です。

江戸時代に編纂された『本朝武藝小傳』には、

「小具足をもって世に鳴るは竹内なり。今、これを腰廻という」

(専以小具足鳴世者竹内也今謂之腰廻)と紹介されています。

もちろん、竹内家が伝承している業形のことです。

 

腰廻小具足の形は、

表25ヶ条、裏55ヶ条、合わせて80ヶ条あります。

ええっ、そんなに?

いえいえ、まだまだ、小具足だけでも、

小裏15ヶ条、極意8ヶ条、裏極意5ヶ条などと続きます。

 

でも、ご安心!

初心者はまず、表25ヶ条のうちの

11ヶ条だけ稽古します。

 

*「編纂」=へんさん・・・・・・・・・・・・・

*「本朝武藝小傳」=ほんちょうぶげいしょうでん

*「腰廻」=こしのまわり⇒「腰之廻」と同じ・・

*「表」=おもて・・・・・・・・・・・・・・・

*「裏」=うら・・・・・・・・・・・・・・・・

*「小裏」=こうら・・・・・・・・・・・・・・

*「極意」=ごくい・・・・・・・・・・・・・・

「こしのまわりこぐそく」

   腰廻小具足 11ヶ条

一「たちまちはなるる」(忽離之事)

 稽古では「たちまち」と略して呼びます。

 

 映像前半〔2番目の形〕です。

 足で押さえた脇の下が相当効いて、痛がっています。降伏するしかありませんね。

 

二「すましみる」(清見之事)

 稽古では「すまし」と略します。

 

 映像前半〔3番めの形〕です。

 顔を剃り上げるように小刀を操ってから脇の下をぐっと押します。じっと相手の顔を見ながら術技を施す形、「すましみる」の名前の由縁です。

 

三「わきざしさやぬき」(脇差鞘抜之事)

 稽古では「さやぬき」と略します。

 

四「かものいりくび」(鴨之入首之事)

 「かものいれくび」とも言います。

 けいこでは「かも」と省略。

 

五「わきざしおとしで」(脇差落手之事)

 稽古では「おとしで」と略して呼びます。

 この段階で慣れてきたら、「エイッ!」「エエイッ!」と変化しても可!

 

 映像前半〔1番目の形〕です。

 小刀(小具足)を3回落とす技が名前の由縁です。

 細やかな突き・受け、跳躍や回転のタイミングの稽古を繰り返します。

 回転逆転技が極まったときには、双方ともに気持ちよいものです。

 

六「わきざしよこがたな」(脇差横刀之事)

 稽古では「よこがたな」と略します。

 

七「わきざしいりちがい」(脇差入違之事)

 「わきざしいれちがい」とも言います。

 稽古では「いりちがい」と略します。

 

八「つかくだき」(柄砕之事)

 

九「おおごろし」(大殺之事)

 

十「たおしぎり」(倒切之事)

 昔は「たおしきるのこと」と言っていました。

 

十一「みぎのてどり」(右之手取之事)

 昔は「みぎのてとるのこと」と言っていました。

 稽古では「みぎのて」と略します。

「たちまち」の留め 左足に体重をかけて相手の脇の下を踏みつけ、身動きできないようにする!!
「たちまち」の留め 左足に体重をかけて相手の脇の下を踏みつけ、身動きできないようにする!!
「すましみる」の当て のどに当てて顔面を剃り上げ、そのまま脇の下へ!
「すましみる」の当て のどに当てて顔面を剃り上げ、そのまま脇の下へ!
「かものいりくび」の入り! 小刀を抜かせないように左腕で押さえ、右手を伸ばしてくぐるように入り込む! まさに、カモの入り首。
「かものいりくび」の入り! 小刀を抜かせないように左腕で押さえ、右手を伸ばしてくぐるように入り込む! まさに、カモの入り首。
「おとしで」の回転逆転わざ。
「おとしで」の回転逆転わざ。
「おとしで」の留め 足裏で相手のあごを蹴上げ、腕を切る!
「おとしで」の留め 足裏で相手のあごを蹴上げ、腕を切る!

「こぐそく」で使う用具は【用具】のページを参照。

11月21日公開予定。


〔二〕「はで」7ヶ条に挑戦

 

「はで」(羽手)は

武器を持たない素手の術技です。

この形には、護身・捕手・柔術の原理がふんだんに含まれています。

 

前羽手31ヶ条、中羽手5ヶ条、奥羽手11ヶ条があります。

初心者はまず、”前羽手胸倉取”(くちはで むなぐらどり)7ヶ条を稽古します。

「はで」または「むなぐらどり」と略して呼びます。 

*「素手」=すで・・・

*「術技」=じゅつぎ・

*「形」=かた・・・・

*「捕手」=とりて・・

*「前羽手」=くちはで

*「中羽手」=なかはで

*「奥羽手」=おくはで

「くちはで むなぐらどり」

   前羽手胸倉取7ヶ条

 

一「こてくだきかたてどり」(小手砕片手取之事)

 「かたてどり」「かたてくだき」とも言いますが、稽古では「かたて」と略して呼びます。

 

二「こてくだきりょうてどり」(小手砕両手取之事)

 「りょうてどり」「りょうてくだき」とも言いますが、稽古では「りょうて」と略して呼びます。

 

三「だいりきおとし」(大力落之事)

 稽古では「だいりき」と略します。

 

四「きりおとし」(切落之事)

 映像後半の〔1番目の形〕です。 

 つかまれた胸倉の手を切り落とすところから「きりおとし」と命名。

 最後には、身動きできないように留めます。まさに生け捕りです。

 

 

五「みあい」(見合之事)

 

六「ひっかけ」(引掛之事)

 

七「しゃくたく」(尺沢之事) 

「きりおとし」 胸倉取りの手を切り落とした瞬間。手刀(てがたな)の修錬は個々の自由!
「きりおとし」 胸倉取りの手を切り落とした瞬間。手刀(てがたな)の修錬は個々の自由!
「きりおとし」の留め 身動きできないように留めて眉間(無明)に当て身!
「きりおとし」の留め 身動きできないように留めて眉間(無明)に当て身!
「しゃくたく」の留め ツボの尺沢を留めて眉間(無明)に当て身!
「しゃくたく」の留め ツボの尺沢を留めて眉間(無明)に当て身!


〔三〕「ぼう」13ヶ条に挑戦

 

竹内流の「ぼう」は、

地元では「作州で棒を振るな」、

地域外では「作州へ行って棒を振るな」と親しまれてきました。

 

表13ヶ条、裏13ヶ条、奥7ヶ条、免許形7ヶ条などがあります。

まずは、「おもてぼう」(表13ヶ条)に挑戦です。

 

”表棒”(おもてぼう)とか”棒表”(ぼうおもて)と呼ばれていますが、

稽古では普通、「ぼう」と略して呼びます。

 

*「作州」=さくしゅう=「美作国」

 

「おもてぼう」

   表棒13ヶ条

 

一「ものみ」(物見之事)

 

二「かどがまえ」(門構之事)

 

三「しばひき」(芝引之事)

 

四「こしぐるま」(腰車之事)

 

五「かたくずし」(肩崩之事)

 

六「わしのはがえし」(鷲之羽返之事)

 稽古では「わし」と略。

 

七「つるのいっそく」(鶴之一足之事)

 稽古では「つる」と略。

 

八「こいのみずいり」(鯉之水入之事)

 稽古では「こい」と略。

 『月刊秘伝』(BABジャパン)平成29年2月号に「形の流れ」を写真入りで詳説しています。

 

九「ひげ」(飛毛之事)

 

十「とんぼがえり」(蜻蛉返之事)

 「とんぼがえし」とも言います。

 稽古では「とんぼ」と略。

 

十一「じゅんれい」(巡礼之事)

 

十二「にほうがらみ」(二方搦之事)

 稽古では「にほう」と略。

 『月刊秘伝』(BABジャパン)平成29年2月号に「形の流れ」を写真入りで詳説しています。

 

十三「いしわり」(石割之事)

 

形の最初の面打ちは「ヤアッ!」、途中の面打ちは「ホオッ!」
形の最初の面打ちは「ヤアッ!」、途中の面打ちは「ホオッ!」
「こいのみずいり」 棒の最初のさばきは股間をねらって鯉が水に入るが如く! まずはここで勝負ありのはずですが。
「こいのみずいり」 棒の最初のさばきは股間をねらって鯉が水に入るが如く! まずはここで勝負ありのはずですが。
「にほうがらみ」 前後の敵を打ったり突いたりして護身! 昔は屋外で勢いよく稽古をするのが通例。
「にほうがらみ」 前後の敵を打ったり突いたりして護身! 昔は屋外で勢いよく稽古をするのが通例。

「ぼう」で使う用具は【用具】のページを参照。

11月21日公開予定。

 


いかがでしたか。

入門したらまず、竹内流の代表的な術技、

「腰廻小具足」・「羽手」・「棒」の三つを稽古します。

この形が一応できるようになったら、竹内流のあらましを修業したことになります。

しかし、まだ初歩の段階です。

”わけ登る麓の道は遠けれど 同じ雲井の月を眺めん” 『初心手引草』(竹内久居自作書)